かたいなか

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「あれ、今日も、比較的書きやすい……」
どうした書く習慣アプリ。てっきり今日はバチクソ書きづらいお題が飛んでくると思ったが、想定に比べて十何倍も書きやすいぞ。
19時到着の題目に、一定の感謝と最大の安堵のため息をつく某所在住物書き。
長文の題目は長文の題目で、裏をかく楽しみもあろうが、某短文すなわち強札のカードゲームよろしく、テキストの短い題目は、この物書きにとって書きやすかった。

「んん……」
早春の朝日にするか冬のそれにするか、なんなら北国か南国かで、「ぬくもり」の意味合いは変わるわな。
物書きは窓を見遣り、朝日から遠い夜の外を眺めた。

――――――

「朝日の『温もり』、ねぇ」
最近最近の都内某所、某アパート。人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者は、カーテンの隙間から差し込む6月上旬の朝日に網膜をイタズラされ、ベッドから体を起こした。
「『温もり』と言っていられるのは、東京ではきっと4月の朝までだろうな」

1日中くもりの予報が局所的に外れて、ピンポイントに雲が裂けたらしい。
朝から20℃超の外気に温められた室内は、更に朝の光を伴って、「ぬくもり」どころか「暑さ」に変わろうとしていた。
雪国の田舎出身である捻くれ者にとって、朝の20℃は7月か8月の気温分布。
昨晩から仕込んでいた冷蔵庫の中の冷水筒を取り出し、ぽつり。
「……買って良かった昨日の水出し」

カラカラ、ガラリ。
氷とティーバッグの入った水筒は水出し緑茶の穏やかな緑色を揺らし、涼ある音をたてる。
昨日食材の買い出しついでに寄った茶葉屋、そこで予定外に購入してしまった水出し専用茶葉である。
あさつゆ品種の細やかな茶葉は、低温でじっくりテアニンを――茶の甘味と旨味のエッセンスを吐き出し、
一杯注いで口に含み、喉へ通せば、暑さ一歩手前の温もりも瞬時に吹き飛んだ。
(そろそろ朝もエアコンを使うべきか、否か……)

室内に温もりを供給し続ける朝日を、遮光遮熱カーテンおよびレースカーテンでもって、完全に遮る。
捻くれ者にとって重要なのは、一日の始まりを告げる光の針ではなく、暑さに弱い己の心身を守る室温の数値である。
(うん。「朝日の『温もり』」は、多分4月か5月頃までだろうな)
6月から先は「朝日の『熱線』」だ。捻くれ者はため息をつき、氷でよく冷えた水出しの緑茶をもう一度、口に含んだ。

6/9/2023, 3:19:19 PM