(虹の架け橋)(二次創作)
虹を見てみたい、とメアリィが言った。
まだメアリィの父が生きていて、弟子のアレクスも一緒に暮らしていた頃の話だ。
「虹だぁ?」
師は大きな口を開けて繰り返した。
「どこでそんなの知ったんだ」
「これ!」
メアリィは一冊の絵本を指す。『にじのかけはし』という絵本で、空に浮かぶ島に住んでいる女の子が、遠くに見える別の島に行きたいと神様にお願いをしたら、虹が綺麗な橋になったというものだ。
「虹なんて雨上がりにいくらでも……」
「アレクス」
師は弟子を睨んだが、すぐにいいことを思い出した。イミルでは滅多に雨が降らない。雨が降るぐらいなら雪に変わるからだ。だがアクアのエナジーなら話は別だ。よく晴れた日に、虹が見えるようにアクアを発動させる、それをアレクスへの課題とした。
メアリィの目がきらきらに光っている。
実践は翌々日に持ち越された。朝からすっきりとした晴れ間が広がっており、イミルにしては珍しい天候だ。師はメアリィとアレクスを呼び出し、早速アクアを発動させる。
しかして呼び出された小さな雲からは、雪粒が降る。何回か繰り返したが、結果は全て同じだ。
「あめ、ふらないね」
大人しく待っていたメアリィが、しゅんとしている。
「これ、アクアでないと駄目ですか」
とアレクスが尋ねる。
「他にやり方があんのか?」
「直接水を出した方が早いでしょう」
「は?」
言うが早いか、アレクスは手をかざすと霧のような水を発生させた。場所を少し変えたり、手の角度を調整し、やがて、小さな虹が生まれる。
「にじ!ちっちゃいけど、にじだ!」
退屈し始めていたメアリィが、一気に元気になる。他方、師はあまりにも簡単に達成した状況がちょっと面白くない。
「ていうか、直接水を操るって、何なんだよその芸当。ズルくないか?」
「さあ?」
本人は素知らぬ顔だが、定義されたエナジーでない力の使い方など前代未聞だ。その驚異性など知らぬメアリィだけが、ただただ嬉しそうにしていた。
9/22/2025, 10:14:43 AM