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(暗いです)

 歩く2人をずっと遠くから眺めていた。仲睦まじく並んで手を握り、あの人は人とぶつからないように壁になって歩いている。
 あの人が向ける笑顔、表情、仕草全てがあの子を大事にしていると物語っていた。風に遊ばれる髪をすかれて、「危ないよ」と転びそうになる腕を引いて抱き寄せて。
 それがひどく羨ましく妬ましく、どぶのように醜く汚いどろどろした部分が流れ出て、最低な手段をとった。あの人に恨みを持った人間なんて沢山いて効果的なのは大切な者を奪うことだと唆した。

 あの子が居なくなったら、悲しむあの人に声をかけて代わりになれると思っていたのに。球体は話しかけた自分を映していたが空っぽで交わした言葉のどこにも感情なんてのってない。機械と話している気分だった。
 あの子じゃなきゃ、あの人の目にすら映らなかったのだ。計画は失敗して命に別状はなく大怪我をさせただけ。この後起こることが容易に想像がついた。
 この世から消すつもりで大事な人に手を出した、報いがくる。

 記憶も容姿もここにいる自分を作り替えないと、あの子にならないとそれは得られない。愛されるためには自分を消さないと成り立たず、消えた自分が『幸せに』なることはなく。
 暗い路地裏、冷たい床に這いつくばって最期までそんな事を考えている。自分はなんて滑稽なんだろう。
 失われていく四肢の感覚にあの子も同じ様な思いをしたのだろうか。怖い思いをさせてごめんね、と心の中で懺悔しても、もうおそい。

 もやが、かかって、よくみえない、みみなりがする

 愚かな女の涙は血と共に流れ出て、嫉妬と後悔の水溜まりは、彼女が求めて止まない男のブーツを汚していた。



(前回、前々回と繋げて(?)みました)

4/1/2023, 4:44:03 AM