「大人になったら、何にでもなれるよ」
あの日の私は、
その言葉を魔法みたいに信じていた。
ランドセルを放り投げて、
夕焼けに溶けるまで走った帰り道。
コンビニの前で分け合ったアイス。
名前も知らない花を摘んで、
宝物みたいに持って帰った午後。
あの頃の世界は、
両手に収まるほど小さかったのに、
どうしてこんなにも、
きらきらしていたんだろう。
ずっと子供のままでいられたなら良かったのに。
眠れない夜なんて知らないまま、
「また明日ね」が永遠だと思ったまま、
好きなものを好きだと言えて、
泣きたい時にはちゃんと泣けるまま。
大人になるたび、
何かを上手に隠せるようになってしまった。
本当はまだ、
転んだら泣きたいし、
寂しい夜には誰かの袖を掴んでいたい。
けれど街は今日も、
「もう子供じゃないでしょう」と優しい顔で私を追い越していく。
夏の匂いがするたびに思い出す。
汗ばんだ手。
遠くの風鈴。
溶けかけのアイス。
帰らなきゃいけない時間の空の色。
あの頃、
確かに私は世界に愛されていた。
だから今でも時々、
夢の中でだけ、
小さな靴のまま走っている。
誰にも見つからないように、
子供のままの心を抱きしめながら。
5/12/2026, 2:08:50 PM