燈火

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【一輪のコスモス】


洗練された美しさのたとえは多く存在する。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
いずれ菖蒲か杜若。高嶺の花である、石楠花。
どれも彼女を言い表すのに相応しい花だ。

必死に手を伸ばしても届かない、遠い存在。
今の彼女しか知らなければそう思うだろう。
だが、麗しくあるためには手入れが必要だ。
その手入れをする誰かが、たまたま僕だった。

僕と彼女の出会いは中学時代にさかのぼる。
当時の彼女は、今とまるで違う姿をしていた。
性格や品の良さはそのままだが、主に容姿が。
メガネを掛けた目は前髪で隠れ、寝癖がそのまま。

彼女に話しかけたきっかけは、おませな妹だった。
その頃、僕は連日ヘアアレンジをさせられていた。
初めは嫌々していたそれに興味が湧いてきて。
「髪触ってもいい?」彼女は呆然としていた。

いや、うん。我ながらどうかしていた。
始業前の教室に二人きりだからこそ良くなかった。
慌てて事情を説明する僕は無様だったことだろう。
だけど彼女は意外にも「好きにしていいよ」と言う。

僕のアレンジを彼女は気に入ったようだった。
次は彼女から声をかけられ、また始業前の教室で。
人は見た目が八割とは、まさにその通りだと思う。
容姿を整えただけで一気に目を引く存在になった。

高校入学を機に、彼女はコンタクトに変えた。
前髪を切り揃え、隠していた泣きぼくろが露出する。
彼女が視線を集めると誇らしげな気持ちになる。
綺麗だろ、彼女は僕の花なんだ。

10/11/2025, 9:39:52 AM