ほろ

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大切なものっていうのは、失ってから気付くらしい。

「先生、俺、元カノとまた付き合うことになった」
「え」
放課後の教室。またわざと補習を受けている変な生徒が、突然そんなことを言った。
思わず間抜けな声が出て、次いですぐに『俺の気を引くための嘘だ』と脳に流れる。だから、自然と笑っていた。
「はは、お前、エイプリルフールはとっくに過ぎたぞ」
ジッと見つめてくる生徒から目を逸らし、彼の手元の補習プリントを手に取る。ざっと見る限り、全問正解だ。
「うん、合ってる。じゃあ、補習終わり」
「ねえ、先生」
「ほら、さっさと帰らないと」
「先生」
生徒の手が、俺の左腕を引っ張った。
「確かに嘘だけど、なんで先生は嘘だって思ったの」
「は?」
「普通祝うじゃん。去年は俺と元カノのこと、心配してたじゃん」
「そ、それは……」
目が泳ぐ。
言えない。言えるわけがない。また付き合うと言われた時、ショックを受ける自分がいたことなんて。
「先生、俺のことどう思ってるの」
「……どう、って」
言葉に詰まる。吹奏楽部の練習の音が聞こえる。

俺は一度喉を鳴らすと、思い切って生徒への返答を口にした。

4/2/2024, 4:07:50 PM