未来への鍵
『偽物だったあなたへ』と大きく書かれた、クタクタになった茶封筒を浜辺で透かしてみる。
ネクタイを弛め、護岸ブロックに腰を下ろしその茶封筒からその便箋を取り出した。
中にはびっしりと、知的溢れる綺麗な文字が、今でも息をしているように活気を持って便箋を埋め尽くしている。
「この手紙をあなたが読んでいるということは…」
ベタな文章で始まる所も、本当に彼女らしい。
一文、一文、丁寧に読み進めていく。
一文字一文字から、彼女の温かみを感じる。
ふつふつと、彼女と出会うまで知ることがなかった感情達が、混ざりあって目頭から流れ出ていく。
全てを読み終えたとき、どこからともなく子供らのはしゃぐ声が聞こえてきた。
涙を流しすぎてぐちゃぐちゃになった顔を、大雑把に腕で拭って声のする方へ頭を上げた。
今日という一日が最後に燃え尽きるように赤く染まる砂浜で、足元に迫る冷たい暗闇なんて気にも止めずに、力いっぱいに子供達がその闇を踏みまわっている。
その中で、三日月のすぐ下に煌めく金星に、立ち止まって手を伸ばす少年が一人。
掴み取ろうとしている。
夢を。
希望を。
未来を。
そんな難しいことは考えていないかもしれない。
けれど、彼のその背中に自分の過去を重ねて、期待と羨望を乗せてしまう。
彼に倣って腕を伸ばす。
僕は、沈みゆく太陽に掌を向けて。
1/11/2025, 3:43:50 AM