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思い出の中に一つだけ、小さなアルバムがある。
もちろん、アルバムとは、思い出を思い出すためにあるのだがそうではない。
思い出の中のアルバムは、幅二十センチぐらいの、分厚いアルバムである。
かけられていた紐は、もう茶色くなってしまって、切れかけているのだ。このアルバムは、サチコ生まれた頃から、二十代前半の大学生時代までを、明確に記したアルバムである。
一枚目の写真は、ベビーベッドで横になっている、生まれたての写真。1989.06.07と印字がある。
サチコの父が撮ったもので、サチコはこの写真を見た時、なんて祖母に似ているんだろう、と思った。
妙な話であるが、祖母の鼻は、まるでジャネット・ジャクソンに似ている。燃え盛る炎のように、なんて歌があって、サチコは祖母の顔を思い出すと、その歌が必ず脳裏に流れ出すのだった。
二枚目の写真は、七五三だろうか。
三歳ぐらいのサチコが、赤い着物を着て父と母と並んで写っている。
すこし、紅を引かれた口元が明るい。
父と母の顔は、若々しい。父の顔ほはつらつとした、気が漲っているかのようだ。バブル崩壊後のことだろう。さほど、景気も良くなかったはずである。
三枚目の写真は、幼稚園の入学式の写真だ。
サチコだけが、黄色いスモックと、緑色の帽子を被って、地面にペタリと体育座りしている。
思い出の中のアルバムは、いつも繊細に思い出せる。

11/18/2023, 10:21:53 AM