るね

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【新年】


 一年の始まりはなぜ真冬なのか。春でもいいのに。芽吹きの頃なら、いかにも『新年』って感じがしておめでたいし、区切りが良いんじゃないだろうか。少なくとも、こんなかじかむ寒さの中で初詣での長い行列に並んだりしなくて済む。人混みで風邪をうつされるんじゃないかという心配も、春なら少しはマシになるかもしれない。

 私は何度目かのため息をついた。一緒に初詣でに来ていた恋人が気遣わしげに聞いてくる。
「手袋、見つからなかったの?」
「うん……バッグとかコートのポケットの中にはなかった」
 そうなのだ。どうやらどこかで落としたらしい。割と気に入ってたのに。

「なんで一月って真冬なんだろ。別の季節でもいいのに」
「何。急にどうした?」
「だって、年越しが春ならこんなに寒くないし手袋を落としたりもしないし……」

 私のことをよく知る彼はクスッと笑って言った。
「毎年花粉症で大変なことになってるのに春がいいの?」
「あ。そっか、花粉」
 忘れてた。ボックスティッシュを抱えて新年を迎えるのは流石に嫌だ。

「冬には冬の良さもあるよ」
 のんきに言う彼を、ちょっとムスッとして見上げる。
「例えば?」
「空気が冷たいと気分が引き締まる」
「えー、そうかなぁ」
 それは個人の感想というやつだろう。

「じゃあ……くっつくと暖かい、とか」
 いたずらっぽく笑って、彼は手袋を外した手で私の手に触れた。
「うわ、冷たっ!」
 悲鳴じみた声。私は思わず笑ってしまった。
「そりゃあ冷たいって。冷えるに決まってるでしょ、真冬だよ?」

 彼はむうっと不満そうな顔をした。
「冷えすぎ。ここまで冷たくなる前にちゃんと言って」
「でも」
 手が冷えたと申告したからといって、気温が上がるわけでもない。それなら少しの間、我慢してしまおうかと思っていた。

 私の手を掴んだ彼が歩き出す。
「待って、おみくじがまだ……」
「帰るよ。こんな冷える場所にいたら駄目」
「せっかく来たのに」
 こうなるとわかっていたから、知られたくなかったのだ。
「また来よう。新しい手袋買ってから」

 翌日、私たちはショッピングモールの初売りで手袋を購入した。そして、どうにか休みの間にもう一度神社に行くことができた。
 私のおみくじは大吉。
 失せ物は見つかりづらいらしいけど、恋愛運は上々。今の相手を手放してはいけない、そう書かれていた。



1/2/2025, 2:28:17 AM