蓼 つづみ

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あれに乗ることが出来れば「安泰な未来」へ連れて行ってくれるらしい。

バスは、もう行先表示の文字が霞んでいた。

バスのドアが閉まり、白く曇ったフロントガラスの向こうで、ぼんやりと暖色の灯りが揺れるのを見て、足が動く前に、心が走り出していた。

アスファルトを蹴る音が乾いて弾け、
肺が冷たい空気に削がれるように痛む。

「……僕も、乗せてくれないか!」

声はエンジン音にかき消され、どこにも届かなかった。

バスの後ろ姿は、坂の上の白すぎる空に曝されつつ遠ざかって、
バックフォグランプの赤が、脈打つ心臓のように小さくなっていく。

距離というものが残酷なまでに脚力へとのしかかり、すり減った靴裏が地面をかきむしる。

やがて体力は限界を迎え、肩で息をしながら、何もない道に立ち尽くした。

肺を擦るように荒く吐き出した息だけが、
胸にまだ熱が残っていることを、白く示している。


題 白い吐息

12/7/2025, 11:15:24 AM