『夜の喫茶店で』カップの中で夜が揺れていた。それは罪のように黒く、約束のように熱く、祈りのように純粋で、そして、報われぬ恋のように甘かった。窓の外では、雨がまだ降っている。店主の手元から立ちのぼる蒸気が、ゆるやかに灯を歪ませ、誰かの記憶を撫でていった。一口、また一口。冷めていくたび、あの人の声が遠のいていく。けれど不思議と、胸の奥は温かかった。――きっと、恋もコーヒーも、冷める瞬間までが、美しいのだろう。
10/16/2025, 10:44:05 PM