"初恋の日"
二十九になって初恋をするとは思わなかった。
幼い頃に《好き》という言葉を他人に言った事あるが、その《好き》は両親への《好き》と同じ意味合いでだった。
小学校高学年になってからは一度も言った事がない。
そんな俺が二十九になって、久しぶりに《好き》という言葉が浮かんだが、その意味が全く違うものになっていた。
じわじわと気付いていったから、ハッキリとは分からない。
ただ、その《好き》に別の名前が付いた日は覚えてる。
自分が同性に恋心を抱いた事への混乱。カミングアウトした時、自分の想いを受け入れてくれるかどうかの不安。それと、周りの偏見。
混乱と、不安と、恐怖。
だからといって、想いが無くなる訳ではない。むしろ、消えるどころか大きくなった。
名前が付いた事で大きく膨れ上がったのだ。
あれほど強欲に何かを求めたのは、とてつもなく久しぶりだったが、それ以上の強欲さだった。
勿論結ばれても、結ばれてから何年経っても減らない。
初恋の日は、俺が人に対して強欲になった日でもある。
5/7/2024, 2:37:13 PM