烏羽美空朗

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ベランダの外の木が夕日で真っ赤に燃え上がっていたのを見て、俺はなんだか居ても立っても居られなくなり、何の用事もないのに外に飛び出してしまった。

仕方がないのでマンションの周りを大回りするように黄昏を進む。ここら一帯には銀杏の木が道沿いに植えられており、いつの間にか銀杏の実が靴の裏にこびりついていることが度々あるので、気をつけて歩かなければいけない。
適当に羽織ってきたミルクティー色のチェスターコートが冷たい風に揺れる。裾ののれんを通り抜け、後ろで吹き上がる黄色い扇子たちに思わず感嘆の声をあげてしまった。

哀愁……もの悲しいことの意。
漢字に秋と入っている通り、枯れゆくこの季節は確かにどこか哀しい心が芽生えやすい。赤や黄色に熟れたこの世界の先には、真っ白に広がる静寂の冬が待っているのを知っているからであろうか。

今ここで、舞い落ちてくる銀杏の葉を一枚受け止め、大事に大事に取っておいても、冬が来れば他の仲間たちと同じように燃え尽きてしまうのだろうな。

一周し、マンションの入口付近に戻ってくると、近所の一軒家に住むおばちゃんが家の前に散らかった銀杏をやっとこさ掃き集めているのが見えてくる。

あの袋に入れられた葉っぱたちは、もう舞い上がれないのか。
俺は少しだけ、哀愁を理解した。

哀愁をそそる

11/4/2022, 12:05:38 PM