Yushiki

Open App

 遠くの地平線へ沈む太陽を、君と並んで見送る。互いの手と手を繋いだまま、僕らはオレンジ色の夕景の中で、もうすぐ来るはずの闇色の夜を待っていた。

 これが最後の夜だ。君とこの世界で過ごす最後の。
 そう思ったけれど口には出さなかった。ただ手のひらに触れる温もりだけを感じ、世界の終焉を受け入れる。

「怖くない?」

 彼女がそっと囁くように聞いてきた。

「怖くないって言ったら嘘になるけど、それでもどこか安堵している自分もいるんだ」

 僕の言葉に彼女が手を繋ぐ力を強くする。

「うん。私も、そう。何でかな?」

 その疑問に僕は答えられない。だってこんな状況で安らいでいるなんて、自分でもよくわからないのだから。

「でもね、私、思うの。今までの人生がどうだったとしても、きっと最期に君といられることが答えなんだって思う」

 君と見るこの風景が。君と繋ぐこの手が。

 終わりさえ良ければ、たとえどんな理不尽だって許せるなって気がするの。

 こんな突然に起きた世界の終わりでさえも。

 そう言って微笑んだ君はとても美しく、僕の脳裏に焼き付いた。



【世界の終わりに君と】

6/8/2023, 5:08:50 AM