Ryu

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皆に嫌われたかな。
あんなこと言わなければ良かったな。
皆、楽しそうだった。
気持ちが盛り上がって、心が通じ合っていたのかもしれない。

一人が、「夜景でも見に行こうぜ」と言い出して、こんな時間に?と思ったけど、他の皆はかなり乗り気で。
私だけが、「こんな夜更けに山を登るなんて、なんか怖いし危険だよ」と断った。
少しだけ皆の白けた顔。
でもすぐに、「じゃあお前は先に帰ってろよ」と誰かが言って、笑いながら居酒屋を出ていった。

夜空にぼんやりと浮かぶお月様を見上げながら、一人家路を辿る。
さっきまでの楽しい時間が嘘のように、静まり返った私の心。
今頃、皆はどこにいるのだろう。
どこかの山の頂上で、眼下に広がる綺麗な夜景を眺めているのだろうか。
私の片思いのあの人も、きっと誰かと肩を並べて、夢見るような時間を過ごしているのかもしれない。
切ないけど、でも私は、あんなに酔っていたのに、車で出掛けようとするあの人達についていけなかった。

次の日、昨日一緒に飲んだ職場の仲間達は、誰一人として出勤しなかった。
昼頃になって状況が伝わってくる。
昨夜遅く、山道を下りる途中でカーブを曲がりきれず、ガードレールを突き破って崖下に転落した車が一台。
そこには、私を居酒屋に置き去りにした仲間達が乗っていた。
私が密かに恋をしていたあの人も。

仕事を早退して、警察で事情を説明する。
と言っても、店を出た後のことはまったく分からない。
話を聞いた刑事さんは、別れ際に私にこう言った。
「あなたは、賢明な判断でしたね」

家に帰り、部屋の片隅で、昨夜のことを思い出しながら、自分は何故ここにいるのかと自問する。
あんなに仲の良いグループだったのに。
職場で、こんな友達付き合いが出来るなんて思ってなかった。
ノリが良くて、楽しくて、恋するあの人がいて。
私は賢明な判断など、したのだろうか。
だとしたら、この空虚な心はどうしたらいい?
一緒に夜景を見に行くか、必死で皆を止めるか、どちらかをすべきだったのだろうか。
いや…たとえあの時間に戻っても、私にはどちらの行動も取れなかったと思う。

夜が訪れても明かりもつけないまま、私はぼんやり考えていた。
生きていくことを、楽しむことと割り切ることが出来たら。
正しさに振り回される弱さを、跳ねのけることが出来たなら。
私は今、ここにいて、部屋の片隅で膝を抱えることもなかったのだろうか。

深夜、職場の上司から電話があった。
転落した車から、奇跡的に命を取りとめた男性が救助されたと言う。
それは、夜景を見に行こうと言い出した同僚だった。

両足に力を入れて、立ち上がった。
自分の使命を与えられたような気分だった。
彼に正義を振りかざすつもりはない。
だけど、彼と話せば、ほんの少し自分を許せるような気がする。
自分が、「賢明な判断」をしたと気付かせてくれるような、そんな気がした。

そして私は、眠れないまま、彼らが迎えられなかった朝を迎える。

12/7/2024, 1:36:32 PM