幸せに
母はよく、歌を歌ってくれた。
膝枕をして、縁側で鳴り響く母の声。
お日様に照らされているせいなのか、どうしようもなく心地よくて毎回僕は眠ってしまう。
「かあさん」
さりげなく視線を上に向けると、母と目が合った。
すると、歌っていた口を止めて、僕の頭に手を置き、手のひらをやさしく動かす。
「なんで……歌ってくれるん?」
僕がそう聞くと、かあさんは力無く頬を緩ませ微笑した。
遠く木を見て「なんでやろうねぇ」と答える。
「そうやな、あんたが怖くならんよう歌ぉとる」
「僕、怖くあらへんよ」
かあさんが、また「ふふふ」と笑った。
「小さいとき、『やな夢みた』って言って、わたしの元離れへんかってんで?」
「トイレまで一緒に着いてくるもんやから、大変やったなぁ」
僕は、耳が赤くなる。
一瞬、記憶もない過去の自分を恨んだけれど、それよりも目の前の恥ずかしさで、母の服をぎゅっと握った。
猫のように丸くなってしまった僕を、かあさんは笑いを耐えながら、柔らかい眼差しでこちらを見つめる。
「怖あらへんやろ?」
「うん」
お日様は、まだ沈まないまま。
ずっとこのままでありますように
そう願って、僕は重たい瞼を閉じた。
3/31/2024, 6:54:54 PM