前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某本物の稲荷狐の家族が住まう不思議な不思議な稲荷神社に、
大きなネコのような、あるいは小さなモフモフドラゴンのような、ともかく異世界ネコゴンが、
仕事のために、期間限定で宿泊中。
というのも、稲荷神社に存在する「別の世界に繋がる黒穴」が、突然使えなくなってしまいまして、
それの応急処置をしに来たのです。
モフモフネコドラゴンはビジネスネームを「スフィンクス」といいました。
稲荷神社の黒穴は、大事な穴。
別の世界から「こっち」の世界に落っこちてきた生き物だのアイテムだのを、
「世界線管理局 ◯◯担当行き」の黒穴にドンドと放り込んで、対処してもらうのです。
ちなみにその担当は、だいたい「密入出・難民保護担当」です。異世界迷子が意外と多いのです。
さて。
「ハァー、なるほどな」
人間に返信して黒穴を調べておったスフィンクス、ひととおり調べ終わって、言いました。
「こりゃあ、故障とか不具合じゃない。正式な手順を踏んで、厳重ロックしちまったんだ」
こりゃ簡単にハイ復旧とは行かねぇぜ。
スフィンクスはそう言って、頭をガリガリ。
忌々しそうに黒穴のフチを、蹴る真似をしました。
正式な手順とは、つまり稲荷狐の神秘の術。
稲荷神社の神様が、稲荷の神様の権限でもって、「こっち」の世界の日本と、別の世界との繋がりを、全部ぜんぶ、塞いでしまったのでした。
「神様の言うとおり」。
そりゃ黒穴も使えなくなるというものです。
どれだけ人間がこじ開けようとしても、
塞いでいる相手が、神様なのです。
「ウカノミタマのオオカミ様は、上等な酒と、上質な白米で作られた餅と、美しい魂を持つ人間の美しい舞と接待をご所望です」
稲荷神社に住まう、稲荷狐のお母さんが答えます。
「それらをどっさり準備すれば、
オオカミ様はそれらを召し上がり、
この神社の黒穴だけは、お許しになるでしょう」
必要ならば、用意なさい。
お母さん狐はそう言って、穏やかに、笑いました。
「上等な酒と、上質な餅と、美しい魂?」
「ウカノミタマのオオカミ様は、『せっかくだから別の世界の酒と餅を持ってきなさい』と仰せです」
「はぁ」
「オオカミ様の舌や鼻や、目は誤魔化せません。
ゆめゆめ、安い酒と手抜きの餅で済まそうなどとは、思わぬことです。よいですね」
「ふーん……」
「どっさり持ってくるのです。どっさりですよ」
「はいはい。分かった。わかったって」
しゃーねぇなぁ。ちょっくら行ってくるか。
ゲートを修理しに来たスフィンクスは、再度頭をガリガリかいて、人間の変身を解除してモフモフのネコドラゴンに戻り、
自分の世界の、自分の職場に戻って、お酒とお餅をどっさり運んでくるために、
まさしくお題どおり、
「遠くの空へ」、飛んでゆきました。
『酒……さけ……? モチ……???』
真夜中の夜空を走るように、モフモフネコゴンのスフィンクスが飛んでゆきます。
『え?つまり、イチバン高い酒と餅を持ってくりゃ良いの?どっさり? 味のリクエストは???』
速度をつけて、対流圏で摩擦熱を起こし、
極寒の成層圏から中間圏をその熱で突破して、
そして、ネコゴンはとうとう、熱圏へ到達します。
『ホトのヤツなら、良い酒、知ってるかな』
強い風と摩擦とでネコゴンの抜け毛が整理され、抜けてって、それらに摩擦の火がついて、
モフモフネコゴンは彗星か、長いほうき星のように、真夜中の夜空に輝いて、地球を脱出します。
『じょーとーな、さけ……?????』
え、つまり、その上等な酒と餅をどっさり持って、俺様、また大気圏再突入すんの?
ネコゴンはぶつぶつ言いながら、宇宙を渡り、世界の壁を抜けて、自分の職場がある世界の宇宙へ、
遠くの空へ、戻っていったとさ。
そこから先は、またいつか。次回配信のお題次第。
しゃーない、しゃーない。
8/17/2025, 8:27:30 AM