池上さゆり

Open App

 始まりがあれば、終わりも当然あるわけで。
 告白されたあの日のことだって鮮明に思い出せる。初めててを繋いだ時のドキドキも、くだらないことで笑い合った日々も、時々喧嘩だってした。すぐに仲直りしたけど、それでも言わなくていいことや、わざと傷つけるような言葉だって言ってきた。
 きっと、ちりも積もればってやつなんだと思う。
 どこかで感じていた二人の温度差や、以前ほど燃えなくなった穏やかな感情。愛し、愛されたいが叶わないとわかった瞬間。
 長く付き合ってきただけ、この決断をするのは怖かった。

 私から切り出した別れ話だったのに、先に泣いたのは私の方だった。彼も同じ気持ちだったようで、静かに終わった。
 住んでいた家の名義は彼のものだったから、私が出て行くことにした。以前から荷物を新居に少しずつ運んでいたおかげで、すぐに家を出ることになった。
 最後の日に、二人で食事に出かけた。初デートで訪れた思い出のあるお店だった。あのゲームが好きだったとか、あの旅行先の景色が綺麗だったとか、そういった思い出話をしていくうちに時間はどんどん過ぎていった。
 最後にお互いが惚れた瞬間について話した。初めて聞く話だった。お互い、惚れた瞬間、初恋の日が一緒だったことを知って切なくなる。
 お店を出て、数年ぶりの別れの挨拶をした。
 「また、明日ね」と言いかけて、言葉が止まる。もう、二人の間に明日はない。
 最後のこの瞬間に似合う言葉が見つからなくて、無言で手を振った。背中向けて、一人になったとき走馬灯のようにこれまでの思い出が蘇った。
 確かに愛し合っていたのに、どこですれ違ったのだろう。
 答えは見つからない。それでも、忘れない。いつか別の人と愛し合う関係になったとしても、この初恋だけはきっと忘れられない。

5/7/2023, 12:16:40 PM