つぶて

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カラフル

「私はどうしても行きたいの」
半ば怒り口調で主張され、俺は早々に折れた。口喧嘩は嫌いだった。疲れるだけで何も得られない。だいたい、口から生まれたような彼女に俺は勝てない。
投げやりな気持ちで『美術展』の建物へ入る。想像より高い入場料に一瞬足が止まったが、すでに彼女は先導切って角を曲がっていた。
内心で息をついて後を追う。じっと絵に見入る彼女の澄んだ瞳を見ると、つくづく合わないなと思った。
趣味も、性格も、まるで合わない。遊び先も違えば、感性も違う。違うどころか対照的だと思う。感情的で芸術肌で繊細な彼女と、慎重派で合理主義でずぼらな俺。正反対の俺たちは、はたして釣り合っているのだろうか。
「次こっちだって」
小声で彼女が袖を引く。俺はよそ見をしていたらしい。
「あとで気に入った作品教えてね」
耳打ちされ、仕方なく意識を戻す。
色を題材にした現代的な作品が並んでいた。グラデーションが美しいもの、淡白な色使いのもの、カラフルなもの。確かに、どれも見事な作品ばかりだった。
そのなかで、一際目を惹くものがあった。
荒々しい色使いの絵だった。強烈な印象を与えるのに、なぜかバランスの取れた美しさと安心感を感じさせた。
「これ、補色の使い方がいいよね」
「補色か。なるほど」
「真反対の色どうし、やっぱりパワー出るよね」
隣に並んだ彼女は、私も好き、と楽しそうに付け足した。

5/1/2024, 6:20:15 PM