Rara

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好きな本



私には、大好きな本がある。内容は小説だけど、買ったのは中身じゃなくて表紙に惹かれたからだ。美しく繊細なタッチで描かれた主人公の女の子。彼女に一目惚れしてしまった、というのが正しいだろうか。あるいは、彼女を描いた人に惹かれて。いずれにせよ、運命的な出会いだったのに間違いはない。
もちろん中身も読んだ。しっかり読んだ。何度も読んだ。駆け抜けるように何度も読んでしまうほど、読みたくなるほど、私はその内容にも惹かれた。主人公の生き様に惹かれた。本当に表紙も内容も、何もかも好きな本である。

何度も読み返すうちに私は気づいた。間違いない。

私はこの女の子に恋をしている。

私は彼女をお高めのブックカバーに入れ、鞄に入れて持ち歩いた。彼女が近くにいてくれる気がしたからだ。あの本を、あの本に描かれた彼女を、私は愛している。

表紙にしか描かれていない彼女の顔。文章としてしか存在しない彼女の存在。彼女の生き様。どうしようもなく好きな彼女が、本という形をとって私の手の中にいる。なんだか素敵なことだと思った。

しかし、私はあまりにも彼女が好きになってしまった。1冊で完結してしまう、私とは違う世界に住む彼女。私の愛する彼女は、私からあまりにも遠かった。彼女と一緒にいたい。もっと近くにいたい。その欲望はだんだんと私の心に満ちていった。ついに臨界点に達した。

私は、私も文章になるという選択をした。

文章というのは素晴らしい。「そこにある」と表記するだけで、登場人物にとっては本当に「そこにある」ようになる。単語の数だけ、無限の可能性が広がっている。筆者が言葉を紡ぎ、読み手が言葉から思い描く。その範囲内で、登場人物は自由自在に踊れるのだ。あなたが今そうしているように。

私の欲望は、次の1行を表記するだけで全て叶ってしまう。本当に素晴らしい世界だ。

私は愛する彼女と共に、同じ世界でずっと幸せに暮らした。

6/15/2024, 10:56:09 AM