小百合

Open App

 からりと茶色にしなびた葉が地に落ちる。硬く、空虚な音を立てながら。
 私と手を繋ぎながら歩く翔くんは、枯葉を踏むたびに鳴る、かしゃかしゃとした音を聞いては嬉しそうにはしゃいだ。彼の赤色のスニーカーが、茶色の枯葉の上で踊る。
「あはは、がさがさしてて楽しい!」
私の手を離し、足音を踏み鳴らしながら走り出す翔くん。飛び跳ねたり、スキップをしたり、両手でかき集めた葉を空へと投げ放ったり。茶色の味気ない景色の中で、彼の姿がひどく眩しくて、愛おしかった。
 「こら!汚いからやめなさい」
私と翔くんの後ろから歩いてきていた香織が翔くんを叱る。私は、私に言われたわけではないのに思わず首を竦めてしまった。
「そんなに怒らなくていいじゃないの」
香織の方に向き直ってそう宥めると、香織は首を横に振った。
「若葉みたいな綺麗なやつならまだ良いけど、枯葉って何だか嫌じゃない。死んだ葉っぱでしょう?それに破れやすくて服にくっつきやすいし。誰が翔の服を洗うと思ってるのよ」
死んだ葉っぱ。嫌な言い方だ、と私は思った。ただ、長い間生きただけの葉だ。新しい世代に若さを手渡した先達と言ってもいい。私は、香織の冷たい言い方に目を伏せてしまった。
 「僕は枯葉好きだよ!」
いつの間にか、私の傍らに翔くんが戻ってきていた。
その頬は寒い中はしゃいだせいか林檎のように赤く染まって、その息ははっ、はっ、と弾んでいた。
「なんかおばあちゃんみたい。かさかさ言いながら僕と遊んでくれて、それなのに茶色くて大人っぽいの。だから好き。おばあちゃんと同じくらい好きだよ!」
そう言って翔くんは私の腕に抱きついた。突然のことに僅かにバランスを崩すが、すんでのところで耐えて翔くんに向かって目を細める。
「ありがとう。私も翔くんが好きだよ。お母さんを困らせないように、服に葉っぱが付かないように気をつけて遊ぶんだよ」

 この若葉も、いつかは私のように枯れていく。ただ、それまでの時間を美しく、たくましく送ってくれることを祈る。そして、かさかさと無邪気に音を奏でながら次の若葉達の良き先生に、良き遊び相手となってくれることを。

2/19/2024, 1:56:40 PM