マサティ

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お題:kiss「First kiss」

意味の無いところにキスは存在しない。
彼は賢しらにそう言った。
意味深な発言に私は詰める。
「で、どうなの?」
「なにが?」
いやつまり、誰かとキスしたのか、違うのか。
なんて、野暮なこと勿論聞かないのだけれど。
「もういい」
と、一旦会話を打ち切る。
私たちは時々、こうしてズル休みをし保健室で落ち合う。
意味の無い不毛な会話を繰り広げる。
他者の入る余地がないこの時間に、私は心地よさを感じる。
憂鬱な受験勉強も、束の間忘れられる私たちの箱庭だ。

彼は冒頭の議論について話し足りないらしく、話を戻した。
「たとえば、出会い頭に男女がぶつかって唇が重なってしまったとして。それがキスだって言える?」
答えはノー。と言いかけて、ちょっと思いとどまる。
分かって言ってるのかこいつ、と舌打ち。
漫画みたいだけれど、私は彼と同じシチュエーションになったことがあるのだ。
もう3年も前の話。私たちはまだ中学生だった。
私たちは偶然にも同じ高校に進学した。
正直、彼との衝突について、ついこの間まで忘れていたくらい。
「キスとは言えないかもしれない。けれど、その行為が後付けでキスだったと言えることもあるんじゃないかな、なんて」
私は、自分でもよく分からない感情のままそう答える。
「つまり?」
「後々彼らが恋人になったとして、お互いにその事実を覚えていたらキスだったと言えるかもしれない」
言い過ぎたか。あざとかったか。何を言っているんだ私は。
顔が熱くなる私をよそに、彼は研究者のように手を口元にあて何か思案している。
なるほど、いやしかし、その可能性には思い当たらなかった、とかなんとか。
彼は唐突に、ポンと手を打ち立ち上がった。
「桜を見に行こう」
「いや、まだ咲いてないけど」
「知ってる。咲いた時にってこと」
窓を開けると、肌寒い風が保健室を舞った。
春はまだ、少しだけ遠い。

2/4/2024, 12:32:18 PM