【秘密の手紙】
開けてはならない・世代を超える・封蝋・封緘・ラブレター・機密事項・郵送・配達
俺は重大なミスをやらかしたのかもしれない。扉の前で空を見上げていた。
「はい〜」
おっといけない、だからって仕事を疎かにする訳にはいかない。
帽子を深く被り直し、手紙に視線を下す。
「日本郵便です〜」
声にも気合いが入らなかった。別に名乗りに気合を入れたことなんてないが。
いよいよここの住人と対面か。一対どんな反応をするだろうか。男だったり荒っぽかったりしたら嫌だった。
しかしその点、声質的にはおっとりした40代〜50代の女性だろう。まぁ女性の年齢なんて予測できない。30代だと思っていたら60代なこともあるし、その逆もある。なんなら男性だった。なんてことすらある。
なんにせよ、声質は割とおっとりしていた。手紙を渡した途端いきなり怒鳴られる、なんてことはないだろう。
手紙を届けて叱られるなんてこと滅多にないが、流石にこんな手紙を届けてもなぁ。
ドタドタと慌ただしい音を立てた後しばらくして、戸が開いた。
「お屆け物です」
さぁ、どんな反応を見せる?顔をチラリと伺う。そこで気付いた。淒い美人だ。所々に皺があり、生きた年の長さを感じさせるが、肌のハリツヤは落ちていない。ガラスのように光を反射して白く輝いている。もし俺が同年代、60代くらいだったら惚れるんだろう。
その顔が見る見るうちに変化した。具体的に言えば、顔のシワが増えた。主に額の。困惑の表情だった。
「開けましたか?」
「いえ」
「……」
女性は不審な表情を変えないまま手紙を受け取り、また見つめながら、そのまま突然年老いたかのようにゆっくりと戻っていく。
「っふぅ〜」
とりあえず、ミッションクリアだ。いやはや、「配達屋さん、開けてください」と縦橫にびっしり書かれた手紙を見た時はどうしたものかと焦ったが。おっとりした女性で本当助かった。
とはいえ、この手紙を出した意図というのはとても気になる。女性に会うまでは、調査なのかと思った。開けてください、と書いてあっても開けない勤勉な配達員かどうかの調査かと。だとしたら女性はこの事実を事前に知っていたはずだし、困惑するはずもない。まぁ、めちゃくちゃ舞台派な可能性は残るけど。
あとは、なんだ。その可能性がなければ単純に女性に対して変な手紙を送っただけ?高齢ではあったが美人だし、異質なストーカーか?でも俺に中身を見るように指示する必要ないしなぁ。
なんにせよ、中身はもう知りようがない。まぁでも、帰ったら一言、真面目にやったことをアピールでもするかな。
【あとがき】
短めにするつもりでしたが、案外長くなりました。それと、早めに明かしたかったのですが手紙の奇妙さが随分後半の開示となりました。その分どんな手紙なんだろう。とモヤモヤしている間、イメージが膨らむという面では面白い。しかし単純に「早く教えろよ」と飽きられてしまう可能性もあります。
最後まで読んで貰わないといいねをもらうことは不可能に近いでしょうし、最後まで読んでもらった方が私にとっては得です。ですから、前半に明かしたかったのですが……
あと、今日のテーマ。最初は世代間を超えて受け継がれる誰も開けていない謎の手紙。を描きたかったのですが、配達員にあけることを指示している謎の手紙、という構図が面白かったのでこちらを採用しました。怖いですよね。でもありえないとは言えない。そして中身がわからない以上、この話ってホラーにもラブロマンスにもなりきれていないんですよ。多分。
12/5/2025, 12:31:06 AM