300字小説
鬼女の情け
形代にあの子の名前を書いて、縁切り神社の石碑を表から裏に裏から表に回る。
両親と夫をたて続けに事故で失って思い知らされた。あの鬼女は今も家族の絆を伝い、私達を狙っている。
夕暮れの帰り道。道先にたたずむ影に息を飲む。今度は私の番だ。でも……。
「あの子は夫の連れ子なの。だから見逃して……」
神社のお守りを両手に挟んで祈る。影がゆらりと蠢いた、
しとしとと雨の降る夜、義母の通夜から帰る。義母は自分に何があっても絶対に関わるな、と言っていたが、どうしても、あの優しかった人にお礼を言いたくて。
ふと気付くと電柱の下にたたずむ影。
『……母と子の想いに免じて見逃してやる……』
女の声が夜風に流れ、影がゆらりと消えた。
お題「絆」
3/6/2024, 11:23:07 AM