Frieden

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「桜散る」

もう随分と暖かくなったもんだ。この辺りには桜散る季節が来たから、桜目当ての観光客もまばらになってきた。

「桜、もう散っちゃったか〜……。ちょっと前まで咲いていると思っていたんだけどな〜……。しっかしニンゲンは現金だなぁ!!!散ったらすぐに観にこなくなるじゃないか!!!」

……仕方のないことだ。ただの木を見ていても、そんなに楽しくないからな。

「む〜……まだまだ桜の季節を味わっていたいよぅ〜……あ、コレは……?!」

「ねぇ!!!八重桜はご存知かい?!!」
まぁ、一応。この辺りではあまり見かけないが。

「八重桜が見頃を迎えたらしいよ!!!一緒に見に行こうよ!!!」
どこまで見に行くつもりなんだ?
「えーっと、ココなら家から近いよ!!!行こう!!!」
まだ準備もしていないのに手を引かれる。ちょっと待て!
「うん??」
マスク。あと防護メガネ。
「あ〜……花粉か〜。……完全に多くのひとがイメージする不審者そのもの……って感じの格好だね!!!もうちょっと明るい色の服を着たまえよ!!!そしたら多少はマシになるんじゃないかい???」
まともな服がないからこのまま行く。
「そうかい……。まあいいか……。」

今日はさわやかに晴れている。
「いい天気だね!!!お花見日和だねえ!!!」
あんたはご機嫌そうに前を歩いていく。

「ほらほら!!!こっちこっち!!!」
そんなに桜が気に入ったのか。……よかった。
自分も自然と早足になる。

「着いたね!!!」
……こんな所に寺なんてあっただろうか?この町で暮らしてしばらく経ったからある程度は把握できているつもりだったが、意外と知らないことがあるもんだ。

「入場料はないみたいだよ!!!」
早速ずけずけと入っていこうとしているのを自分は止めた。一応、挨拶は忘れないように、な。

「おじゃましまーす!!!」
おじゃまします。

「うおー!!!コレが八重桜かい?!!華やかだねぇ!!!桜餅が木に実っているようで美味しそう!!!!」

見頃を終えた枝垂れ桜とソメイヨシノを横目に自分も八重桜のもとに歩いていく。確かに可愛らしい花だ。
花びらが何重にもなっていて、ふわふわの綿飴のようで……あれ?

「あ!!!ねえ!!!ここでも桜餅を売っているみたいだよ!!!食べようよ!!!」
そう言われると思って、お金は準備してきた。
「わーい!!!」

桜餅を食べながら、寺の庭を眺める。
古い木の香りと桜餅の香りで、なんとなく懐かしい気持ちになった。

「ここすごいね!!!色んな桜の木が植えられているし、桜餅も食べられるし、あと、あの建築技法は……!!!」
……古い建物のことを聞かれても答えられないぞ。
「そんな〜!!!」

でも、楽しそうでなによりだ。あんたは自分の時間を全て──殆ど眠りもせずに──宇宙に注いでいる。ぱっと見苦労しているようには見えないが、きっと計り知れない程の労力を現在進行形で割いているんだろう?そんな毎日だからこそ、こういう小さな喜びがあってもいいはずだよな……?

「そこまで深くは考えてないよ」
「んまぁでも、八重桜も見られたし、桜餅も食べられたし!!!今日は満足ってとこかな!!!」

「さて、帰ろうか!!!せっかくだからまた明日も来ようね!!!」

明日も、か……。でも、自分でもわかる。こういうゆっくり流れる時間が好きになっていく自分がいることに。

昼下がりの陽の光の中を2人で歩く。
そんな時ふと思った。
いつまで、こんなふうに過ごせるんだろう?

きっといつかは別れが来る。
桜の花が咲いて、やがて散るように。
きっと、いつか。

「そんなことを心配しているのかい?!!まだそんなことは考えなくっていいよ〜!!!それよりもさ、ほら、スーパー寄らない???桜餅、また食べたいんだよね〜!!!」

全く呑気なやつだ……。
でも、あんたらしくて安心したよ。
さて、スーパーにでも行くかな。

4/18/2024, 9:51:20 AM