せつか

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一度だけ、ママに抱き締められた。
その頃はまだそんなにアル中の症状が深刻でなく、その日は酒が抜けてだいぶ気分がいいと言っていた。
客が優しかった、というのもあるだろう。
ママは私を抱き締めて、「ごめんね」と言った。
あの時のママの手のひらのあたたかさを、私は今でも覚えている。

それから程なく、ママはアル中が進行し酒が切れると私に暴力を振るうようになり、生活も荒んできた。
それでも私がママのそばを離れなかったのは、あの日の記憶が忘れられなかったからだ。
ママの優しい声。煙草の匂い。あたたかい手のひら。
たった一度のぬくもり。
あの日感じたあたたかさは、本物だった。


END


「遠い日のぬくもり」

12/24/2025, 4:35:10 PM