らむね

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桜は散り際が美しい。

私たちには弱いものを愛でる習慣がある。強いほうが美しいに決まっているのに?桜は散り際こそ美しいと言われるし、未熟な赤ちゃんが可愛いく思えるし、女らしくといえば大抵はしおらしく小さく纏まった姿を指すだろう。

でもそれって、弱いものは消えてしまいそうだから惜しく感じるだけなんじゃないの?物を捨てるとき途端に惜しくなるのと似たようなもので。
可哀想は可愛いって言うけれど、それだって可哀想な弱い存在に同情して守ってあげたくなって、守ってあげたいのはそれを愛してるからだと錯覚を起こして後づけで可愛いが生まれるんじゃないの。儚げなものを美しく感じるのも、なくなりそうで惜しいと思うから、そうやって心揺さぶられるのを魅力だと思いこんでいるんじゃない?散って春まで咲かない桜は惜しいから美しいけれど、動物の毛みたいに花びらが一年中抜けては生えてを繰り返している桜があったらきっと大して美しくない。
それとも、勇気づけられているのかな。弱いものは、そこにいるだけで弱いのはあなただけじゃないよって慰めてくれるから。散っていく桜は、いつか老いて散っていく私と同じ境遇を先に辿ってくれるから。

感情なんて案外いい加減だし、言葉があるからいけないんだよ。感情は文脈なのだと思う。

だからきっと、あの人は私じゃなくてあの子を選んだんだな。弱くて、繊細で、可愛くて、美しいあの子を。

私はいつだって強くありたくて、というより強くないと生きてこられなかった。泣き叫んでも可哀想なふりをしても誰も助けてはくれないのだと、幼い頃から身を持って知らされていたし、強くあるしか生き方を知らなかった。
けれど、あの子もあの子なりに自分の環境に適応してあの子が出来上がったのだろう。もしかしたら弱く振る舞うことでしか生きてこられなかったのかもしれない。

理屈を後づけしてただ嫉妬をしているだけの私は、どうしようもなく醜くて弱い。けれどこの私の弱さは美しくはないのでしょうか。 
わからない。わからないよ。
わからないから、花占いで決めてしまおう。花びらをちぎって、美しい、美しくないって決めてもらうの。
全部散らしてしまえば、きっとあの桜みたいに美しくなれるよ。

『繊細な花』

6/25/2024, 4:57:24 PM