ひとつめの扉は天国へ
ふたつめの扉は地獄の恋人のもとへ
みっつめのドアは君の生きるべき世界に戻れるよ
うつくしい人だった。
私が霞んでしまうくらいに。
容姿もさながら、
その心は赤子の様に純真で、清らかだった。
彼の前では妬みなど何処かへ行ってしまった。
そんな彼が、死んだ。
地獄の悪魔が、拐かしていったらしい
わたしを止めるモノは、無くなった。
勢いできたこの世界は、光に包まれて酷く美しかった。
それでも此処は天国ではないという。
自称案内人は、ひどい三つの選択肢を突きつけてくる。
やっぱり天国ではないのかもしれない。
天国へ行くには何も得ていなさすぎる。まだ早い。
では、地獄へ行けるのか?
勿論と言いかけて、ふと心を占める感情に気づく。
ワタシはずっと、彼が、兄が憎かった。
片割れのくせして、全てを奪っていった兄。
優しい心も絶世の容姿も、少しくらいくれてもよかったのに。
気づいたら、三つ目のドアに向かって足が動いていた。
二つ目に行こうと思うのに、足が痺れて動かなくなる。
珍しいブリキのドアノブを捻る感触が、妙に手に残った
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「ちょっと!何処いってたの!?」
「あ...」
気づいた時、私はマンションの前に突っ立っていた。
瞳からは涙が溢れているのに、直前のことがどうも思いだせなかった。
でも、これだけは聞いておかないと。
「あのさ、私って一人っ子だよね。」
当たり前との返答を得て、何故か酷く安堵した。
歩きだした私に、夜景の光がしみる。
(この中に、彼もいたのかな。)
もう思い出せないけれど
【夜景】
9/18/2023, 11:11:35 AM