君の声がする
「好きになってごめんね」
別れ際、君はそう言って笑った。
俺にはわからない何かが、きっと君の心にあったんだろう。
「−−−あの、さ」
思わず引き止めてしまったのは、たぶん、そういうことだ。
「ごめん。……ありがとな」
君はちょっと目を丸くして、それからみずみずしい目を細めて
「ん」
とだけ頷いた。秋の風がふたりのあいだを吹き抜けていった。
君はまた前を向いて歩き出す。その背中が震えるのを見てられなくて、俺もまた早々に背を向けた。
少し歩いて、君の声がした気がした。振り返ると、君の姿はもうなかった。
俺は前を向く。君がそうしたように。
そして、もうじき背中を震わせて声を押し殺して泣くのだろう。君が、決して俺に見せなかった姿を。
もう君の声はきこえない。
2/15/2025, 1:24:33 PM