花火を上げると、うなばらの肌膚を玉皮が撫ぜる。
おわり、の、符丁だった。
かんばせをうかべ、Kは半身を岩礁に乗り出す。
女はべそをかく形相と繕いとを蹣跚する表情で、摺りあしのなみだが海岸へつたう。纏う衣服が柳絮のようで、かんばせに山茶花を彼方此方携えたさまが似合っていた。
「あちき、だめだったぁ」
うわずった、声音だった。
Kは自分のたなごころに視線を落とす。水滴がおちる箇所をさする、つぶす、殺す。しばらくして首肯いた。
「こなたさまだけ。こなたさまだけでござりんす。あちきが、間夫をあいしていると聴いても、わらわせん、また、非難せんで、…。こなたさまだけでやんす。ありがとうござりんした。あちき、こなたさまがおりんせんかったら、もう、…もう、。とかく。間夫とはおさればえ。」
女はKのほほをたなごころで包み、額と額とを、くっつけた。鉤爪で痛みを増悪させないよう、女を、やさしく、せいいっぱい、抱き締めた。長い尾びれと、粘液との居心地はさぞかし悪いことだろう。
腕のなかで、女が、すきでありんした、とささやく。
またがる彼女は膝上が肌蹴ており、毀瘠になってもなお、不幸にも淫靡であった。それが女の生涯であった。虚しくも動物、総排出腔のナミダが岸の凹凸をなぞる。
うなばらが粟立つ。
あちき。ーー。女がKの掻疵をなぞり、真皮と魚鱗とのあいだにゆびさきを差し込む。力をくわえて深く剥ぐ。束の間にしょう指の腫瘤目がけて穿つ。反射的に鉤爪が衣服を裂き、女はさいごに微笑した。
「虚妄でも構いやぁせん」
覚悟のある炯眼であった。
慮外なく脆弱な女の指をアと真一文字を解き喰らう。澎湃に揉まれよ飛んで火にいる夏の虫。糸にもなれない血のゆくえはいずこやら。夥しいうたかたに燃ゆる彼らの夏。
6/14/2023, 1:53:32 PM