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 キィ、キィ…
 支柱から伸びた鎖が風に押されてぎこちなく鳴り、ブランコが揺れている。

「懐かしい…。乗ってみても?」
 行きとは別の道を歩きたいと公園を横切る買い物帰り。
 ブランコに乗ってもいいか、と聞いた君は俺が答えを言う前に座っていた。ちょこんと座って足なんて地面に着くのにぶらつかせてさ、幼子みたいだった。

「ふふっ、背中押して下さい」
頼まれるまま背中を押す。近付いて、離れて。また鎖がキィ、と音を立てた。
 子どもの頃を思い出しているのか君は目を閉じてブランコと一緒に揺れて

「子どもの頃はどこまで空に近付けるかって乗ったんだけど…。大きくなって乗ると意外と怖いね…!故郷ではどうだった?」
「ブランコは見かけることが少なかったから、あんまり乗った記憶がないな」
「そうなの?」
「年中、雪が降るから。錆び付いてしまうんだ」

 買い物袋を柵に寄りかからせ俺も、もうひとつのブランコに乗った。勢いをつけると君より大きく、時計の振り子になった気分だ。空がぐんと近くなって一気に後ろに引かれる。大した高さじゃないと括っていただけに。

「見ているだけだと分からないもんだね!」
「うわぁ、高い。そうだ、こうやって靴を飛ばして、天気を聞いて遊んだの。…えいっ!」

 君は器用に片方の靴を一番高い位置から飛ばした。柵を飛び越え転がって、俺はそれをブランコから降りて取りに行く。忘れ物のように靴底を下にしていた。君は片方の足でブランコから立とうとするけど危うく、やんわり声をかける。。

      「そこに居てよ。シンデレラ」

 君に合うもう片方の靴を届けに。
「晴れ時々、王子様だ」

 クスクスと笑った君の前で跪き、靴を履かせ終えるとごちそう様と『ブランコ』の鎖がまたキィ…と鳴った。

2/1/2023, 11:56:33 PM