池上さゆり

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 それはずっと昔の記憶。生まれる何百年も前の記憶。
 僕が生まれた国の王女の生誕祭で行われたパレードで見かけた王女が忘れられなかった。まだ幼い顔をしていたが、凛としていて力強さの感じる美しい顔をしていた。
 だが、当然一般市民であった僕は二度と彼女の顔を拝めないまま生涯を終えた。
 そして、生まれ変わった僕は彼女のことが忘れられずに、面影を探していた。だから、クラスで好きな人のタイプを訊かれるといつも「プライドが高くて、強い人」と答えていた。誰からも共感は得られなかったが、それでも諦められなかった。
 面影を探し続けてさらに数年。僕は大学に進学した。その時は突然訪れた。
 入学式が終わり、各学部の講義室へ移動しようとしたところでその面影を見つけた。衝動に駆られるまま、彼女の腕を掴んでしまった。
「触んな!」
 素早く振り払われたが、怒りに満ちたその表情がこの上なく僕を興奮させた。彼女があの王女なのかはわからない。
 だが、その顔はどこからどう見てもあの時の王女そのものだった。
 やっと巡り会えたのだ。何度、巡り会えたらと考えてきたのだろう。同じ立場で生まれたこの時代を逃すわけにはいかない。なんと声をかけようか。
「ごめんね。タイプだったからつい声を掛けようとしたんだけど、初めてのことだったから焦りが出ちゃった」
「なにそれ、気持ち悪い」
 口から出たのはナンパのようなセリフだった。

10/4/2023, 12:26:35 PM