鍋嶋牡蠣

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数年前、職場恋愛の末にカナミと同棲を始めた。
カナミはすこしおっとりした性格で、でもそれがかわいかった。
「今日はカラッと晴れて、いい洗濯日和だね」
カナミに微笑みかける。
「昨日買ったお肉で夜はビーフシチューにしよっか」
カナミと話すときにはいつもとびきりの笑顔を用意する。
「すっごくおいしいワイン見つけてさ、はやく一緒にのみたいな」
だってカナミが大好きだから。
洗濯機に洗剤を入れて、リビングに戻る。
──ほらカナミはかわいい。
冷蔵庫の横、チェストのすぐそば、ダイニングチェア、そしてあらゆる扉に、カナミが佇んでいる──そう見えるように用意した、無数の写真。
「カナミ、ずっと一緒にいようね」
ピピッと軽快な音楽を鳴らし、洗濯機が作業の終わりをしらせる。
洗濯物をカゴに入れ、ベランダへ出ると背中がぐっと伸びるような晴天がそこにあった。
──向かい合わせになるよう、二枚のTシャツをそれぞれハンガーにかけた。ずっと一緒。ずっと一緒。

8/25/2024, 12:22:35 PM