Ryu

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のんびりと、リビングでくつろぐ時間。
窓の外に広がる冬晴れの空は魅力的だが、騙されちゃいけない、外は凍えるような寒さだ。
あったかい部屋の中で、お気に入りの映画でも観よう。

明日から仕事始め。
当たり前の日々が戻ってくる。
いつもより長い休みがあって、ついに最後の日が訪れた。
もうちょっと、もうちょっとだけ、この至福の時間を味わいたい。

「夜はお鍋でいいかな」
妻からの提案。異論はないね。
「じゃあ、買い物に行きたいから車出してくれる?」
この寒空の下、出掛けるって?
「帰ってきたら、あったかいお鍋が食べられるよ」
それは…魅力的な交渉条件だけど、騙されちゃいけない、外は凍えるような寒さだよ。
「冬が寒いのは当たり前。だからお鍋が美味しいの」

言いくるめられて、車を出す。
正月も明けて、街はすでに当たり前を取り戻していた。
「人出が多いね。皆、寒くても動き始めてる」
「人間は、冬眠という素晴らしい習性を身に付けるべきだよ。無駄なエネルギーを使わずに、あったかいベッドの中でぬくぬくと…」
「そんな自堕落なものじゃないと思うよ。動物達の冬眠は」

冬晴れの空に騙されて、人は冬ごもりから抜け出してしまう。
あったかいリビングは心地良くて、そこで観る映画達は心に染みるのに、人は着膨れてこんな場所に集まってくる。
「明日から仕事か。また早朝の寒さに震えて出勤するんだな」
「当たり前の日常が始まるね。冬眠する動物達と違って、この季節も満喫するのが人間だからね」
「満喫?出来るの、そんなの」
「今夜はお鍋だよ」

夜、明日の仕事に備えて、数日振りのスーツや鞄の中身をチェックする。
食卓の上には、白い湯気を上げる鍋が鎮座して、その湯気の向こうに、妻の笑顔が揺れる。
鍋をつついて、はんぺんを一口。
「うまっ!」
冬晴れの空の下に出向いたおかげで、天晴れな夕食にありつくことが出来た。
これが、冬を満喫するということか。

…確かに、冬眠してたら味わえないな。

1/5/2025, 1:35:06 PM