サヤカアイ

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天災。
とりわけ、地震や津波などは多くのものを奪った。建物、金銭、土地、車、なかでも特に酷いのは人間を多く冥界へと連れて行ってしまうことだ。家族や友達と互いに感謝の言葉をもいえずに、突然別れるのはさぞ辛いことであろう。
ところで、それを人為的にしてしまう行いがあることを知っているだろうか?戦争である。
戦争も天災と同じく、多くのものを奪う。さらに、それは長く長く続き、意図的にものを奪うこともあるから尚更タチが悪い。
天災と違って、戦争は過ぎ去るのが比較的遅い。それはなぜか?簡単だ。人は皆滅びるまで戦うから。そして、天災と違ってリーダー、例えば大統領などが消えなければ終わらないからである。天災は一瞬で全てを奪うが、戦争はまるで消毒液を肌に染み込ませるようにじんわりと奪う。そう、人為的に行われる戦争こそがもっとも恐れるものである。
さて、本題に戻ろう。
これからお見せする映像には、ある国で行われた戦争の一部始終が収められている。その映像が撮られたのは、今から10年ほど前のことだろうか。その映像は後々まで語り継がれることになる。なぜか、まぁ映像を見れば分かるだろう。始まりは、まるでつまらないギャグのようになんの前触れもなく訪れた。いや、もしかしたら前触れはあったのかもしれない。ただ、この映像を見ている君たちには感じ取れなかっただけなのかもしれない。
だが、それは起きてしまった。戦争を起こしてしまった。人間は天災をも人為的に引き起こす術を知っているのだ。
さぁ、ご覧いただこうか!人類の歴史を!
そう説明文が流れたあと、私は映像を見た。まるで劇の前口上みたいな台詞に最初は呆れていたが、なるほどそれはこの映像にできるだけ衝撃を与えないようにするためかもしれない。
なぜなら、人々は核兵器で次から次へと死んでいくからだ。第二次世界大戦……そんなもの過去だ。たしか今は第六次世界大戦が地上で起きているはずだ。だから、これはその戦争か、あるいはもっと前……いずれにしても、人々は焼け爛れていく。突然の別れ?そんなものこの時代には、少なくともこの場にはない。人間はみんなコンピュータによって管理されているのだから。だが、地上ではそうではないらしい。彼らは愛するものに別れを告げられぬまま、別れるのだ。地上で戦うのはお金や地位のない貧しいものばかりで、目的としては娯楽か権力誇示と言った些細なものだ。だが、だが、それでも核兵器を使用しての戦争は今も起きている。私の妹が、それの目撃者としてそこにいる。妹は映像を見ながら、目を手で覆った。この光景が苦しいのだろう。しかし、私は止めなかった。いや、止められなかった。なぜなら、私もこの惨劇にたいして吐き気がするほどの怒りを覚えたからだ。そして、それと同時に涙が止まらなかった。
「あ、あぁ」
私は思わず声を漏らした。その映像には、ある男が映っていたのだ。それは、私がよく知る男であった。そう、彼は。
「父さん」
私は呟いた。画面に映る彼の目の奥には動揺か、怒りか。妹は男の姿を見た途端にゆっくりと手を離した。そして、大粒の涙をポタポタと落としながら彼の最期を見届ける。彼は核によってではなく、人間の銃によって心臓を撃ち抜かれて倒れていた。物価の上がったここでは二人も子を育てるのは現実上無理だ。だから、大金の手に入る戦争で働くしかなかった。それは頭では理解できている。だが、なぜ戦争をしてまでお金を稼がなければいけないのか。それは、彼が亡くなってしまった今でもわからない。妹は耐えきれなくなったのか、蹲り嗚咽している。私は背中をさすることしかできない。大丈夫?と声をかけるが、彼女はただ首を横に振るだけだった。
「父さん」
私はもう一度呟いた。彼は私が生まれた時にはすでに戦争に行っていて、それからは会っていない。だからなのか、彼の死に対しての悲しみよりも戦争に対する怒りの方が勝っていた。そしてそれは妹も同じであったようだ。私たちはこの映像を見終わった。私はその場を去った。
しばらくすると、誰もいない部屋で先程戦争が流れたテレビに、しかも電源の付いていないテレビに、ピエロが現れたのだ。
そしてピエロはこんな言葉を吐かれたのだ。
「如何だったかな?こーんなことになりたくなればみんな頑張って働いてねぇ。でも見るのは楽しいんでしょ?なら、また来てねぇ。バイバーイ」
プツン

5/19/2024, 9:37:51 PM