それでいい
それでいい、と思った。
あのアホみたいな連中から抜け出したら、幸せが待っているって。
きっと君もそう思っていたはずだ。
どこからが間違いだったんだろう。
屋上から見る空はきれいだった。
「また、パパに殴られた……。」
君は袖をまくって痛々しい痣を見せてくれた。
「そっか……。僕も昨日、ママが部屋に来た。」
思い出すだけで、ゾッとする。両脚に顔をうずめるようにする僕を君は優しくなでてくれた。
「怖かったでしょ。」
「うん。」
「私も。」
僕と君は似てる。親がいわゆる『毒親』で、そのせいで学校でもいじめられてる。この時間だけが幸せ。だから、だから二人で逃げ出せばずっと幸せだと思った。これ以上に悪い環境なんてないと思った。
去年の春、君は首をつって死んだ。
腐敗臭のする部屋には君の死体とぐしゃぐしゃの紙があって、
『ごめんなさい。もう限界です。私たちは逃げることなんて許されなかったみたいだね。』
と綴られていた。走り書きでもなく、いつものような丁寧な字だった。僕は、涙すら出なくて、もはや悲しいのかすらわからなくて、洗面台に立って血まみれになりながらヒゲを剃った。
「あのとき、死んでればよかったんだ。」
気づいたら口から溢れていた。
4/4/2024, 3:16:19 PM