あひる

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お題「たった1つの希望」



誰にも僕の声は届かない
暗くて狭い
おまけにこの場所の温度が低いせいか、体の震えが止まらない。

「いつになったら出られるんだ」

10メートルはあるであろう穴の底で膝に顔を埋め男が嘆いた。
もう2日はたったのではないだろうか、時間を知るすべが地上の明かりで判断するしかないため正確な時間は分からない

初めは脱出方法しか考えてなかったが、今は空腹や不安で頭がいっぱいだ。
幅は2メートルくらいあり、土も掘ったら崩れそうだ。

雨が降ってきた

「穴に水が溜まれば上に上がれるんじゃないか?」

しかし待てど待てども雨水は土に吸収されていく
期待はすぐに水に流されていった。
期待するだけ無駄だ。何か奇跡が起こらない限り僕が助かるはずは無い。
僕の思考は完全に停止している。
ただこの寒さと空腹に耐えるだけ。
幸い雨が降って来た。飲み水を確保出来たのでそれだけは天気に感謝した。

「誰かきてくれ」

ここは立ち入り禁止区域だ
誰かがくるはずもない
しかし、連絡手段も脱出手段も無い僕にはそれがたった1つの希望だった。

「うう…寒い」

雨は強くなっていく
体温の下がり方も尋常じゃない
自分の体は自分でよく分かる。
意識が薄くなってきた。
何も考えられない

「誰、か」

顔に何か当たった

「なん、だ?」

目を開けると目の前にロープが垂らされてる
上を見上げると何人かの人影がある
耳に意識すると雨音に混じって何やら人の声が聞こえる

「しっかりしろ!今助ける!」

僕は最後の力を振り絞りローブ引き付け、それを体に括り付けた
引き上げられてる感覚を感じ、僕は安堵した。

「手で穴を掘るのに夢中でこんなに深く掘るなんて、僕はなんてドジなんだ。」

雨音にかき消された男の声は誰にも届かない

3/2/2023, 2:08:23 PM