めしごん

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キャストペリンは旅人である。
春告さん、と呼ぶ通り、雪解けの精霊は春を呼びに北上する、その為だけに産まれ、生き、旅をしている。
たった一日でもシーカシーナの元に留まる事が、彼女にとっては奇跡なのだ。

だからその度シーカシーナは願う。どうかこのまま自分の元に留まってくれないかと。この西の平原で、共に生きてはくれないかと。

だがキャストペリンは旅を止めれば。その場で消えて無くなってしまうだろう。雪解けの精霊はそういうものだ。春が来たら形を持ち、北上し、また空へと還り形を変えて地上に降りて旅をする。巡る命だ。留めては死んでしまう。

その事を知っていてなお、シーカシーナはキャストペリンに恋をした。キャストペリンもシーカシーナに恋をした。
この恋は一日だけの命、そう決めて彼と彼女は一日だけの逢瀬を自分達に許した。

だから毎回毎回別れ際に失恋して、そして再会する度に恋をするのだ。
例えそれが不毛であっても。
いつか彼と彼女が生きる役目を終え、その命を終えるまで。二人の恋は繰り返すのだった。


「失恋」





6/3/2024, 12:38:10 PM