ひと

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どこまでも続く青い空



よく晴れた昼下がり。青空がとても綺麗で穏やかな日だった。

「俺、空を飛んでみたい!」

隣にいたそいつが、突然目を輝かせて言い放った。
「…どうやって?」
「え?えーっと…ドラ◯モンみたいにさ!タケコプターとか」
「漫画の世界だよ、そんなの。」
幼いながらも"現実"という言葉をよく理解していた俺は、すかさず否定した。我ながら可愛くない子どもだったと思う。
「わ、分かんねーだろ!出来るかもだろ!」
「分かるよ。もっとリアルなやつで考えたら?」
「リアル?」
「例えばスカイダイビングとか、飛行機とか」
「飛行機…」
「って、単純すぎるか…えーっと他には」
「いいじゃん!!」
そいつはさっきより目を輝かせて、俺に詰め寄ってきた。
「パイロット!なろうぜ一緒に!」
何で俺もなんだよ、と文句を言ったが本当はうれしかったんだ。
「約束な!!」
そいつが目の前に出した拳に、自分のをこつんとぶつけた。


ゴォォォォッ!!!!!
俺の回想を切り裂くかのように、爆音が響き渡る。
身体中を駆け巡る音と振動。見上げればもう遥か上空を旋回する機体。
湧き上がる歓声は、余計に俺の心を昂らせる。
「相変わらず、すっげぇ音。」
あいつに誘われて、航空自衛隊が毎年開催する航空祭へ来ていた。
昔何度かあいつと行ったことはあるが、高校へ進学してからは一度も行っていなかった。
単に忙しかったというのもあるが、飛行機を見れば見るほど、得体の知れないプレッシャーに押しつぶされそうで、足が向かなかったのだ。

『只今の飛行はf-15による飛行展示でした。続きましてーーー・・・』

あの日、空を飛びたいと唐突に言い出したあいつは、見事に自分の夢を叶えた。
戦闘機のパイロット。さっき爆音を轟かせて観客を沸かせていたのは、俺の幼馴染だ。
子どもの頃の、無邪気な夢を本当に叶えやがった。
今日は人前での初飛行機らしく、ぜひ見に来て欲しいと誘われたのだ。
「すげぇじゃん。」
一度のフライトでこんなにも人々の心を動かせるなんて、幼馴染として誇らしい!と思うと同時に、酷く焦りを覚えた。
「……」
俺はまだお前に追いつけない。
それをまざまざと見せつけられた気がした。
勿論、俺が勝手に感じている事で、あいつの誘いに他意はない。
思わずため息がもれた。
エアラインパイロット、それが俺の目指す場所だ。
最近航空大学校を卒業したばかりのため、まだまだ飛行機に乗るどころか、地上での勤務ばかりの現実だ。この手で舵を取れるようになるには、あと何年かかるか分からない。
けど…
「絶対、追いついてみせるから。」
あの時、空を飛びたいと言ったお前の夢を、本当はいいなって思ったんだ。
俺も飛びたいって思ったんだ。
だから俺は必死でお前を追いかけてる。
また、あの日のようにお前の隣で同じものを見たい。
空ってすげぇよなって語らいたい。
だから、絶対諦めない。

どこまでも続く青い空を飛ぶ、一羽の鷲に向かって叫んだ。

「空で会おう!」

遠くで轟音が響いた気がした。

                       END.

10/23/2024, 6:18:45 PM