嫉妬の嵐、冷めた視線が突き刺さる。
ぼくは平静を装ってコーヒーを一口飲む。
「どうしたの? そんな緊張して」
目の前でそんな呑気な事を口にするのは、一個上の先輩だ。学年中の注目を一身に集める美少女で、容姿端麗成績優秀スポーツ万能を兼ね揃えた正にラブコメヒロインの化身である。腰程まで伸びる艶やかな黒髪から花の香りがする石鹸の匂いが鼻孔を擽った。
ぼくは何故かそんな先輩のお気に入りなのだ。事ある毎にぼくを食事に誘い、彼氏なのではと囁かれもした。彼氏になれるならとっくになっているのに。
「飲み物を買ってきます」
視線から逃れる為、財布を片手に席を立つ。その時「あっ」と先輩は大きな声を出した。
「その硬貨……」
「ああ、何かのイベントの記念硬貨です。昔仲良かった友達と一緒に貰ったのですが、案外気に入ってるんですよこれ。今頃どうしてるかなぁ、アイツ」
「……ふぅん、そっか」
なんだろう。妙に上機嫌になった先輩を残して、ぼくは自販機に向かった。
「そっか……まだ持ってたんだ」
自室の勉強机、引き出しの二段目。質素な箱の中に仕舞いこんだお気に入りの一品。硬貨の表面を優しく撫でる、今頃もう一枚は彼の財布の中にあるのだろう。
「まだ、"男友達"って勘違いしてるのかな?」
一緒に取りに行った友達は、目の前にいるのに。彼は未だにその事実に気付かない。髪を伸ばして化粧をすれば、容姿なんてかなり変わるというのに。
まだ暫くは間抜けな彼の反応を楽しむとしよう。
「ふふっ」
2/18/2023, 2:48:37 AM