灼熱のような暑い夏から、気温が下がり金木犀が香るようになった。数日前に比べて頬を掠める風の冷たさは身震いするほどだ。
と言ってももうすぐ十一月。長袖がないことがおかしいと少しの夏物を残して衣替えを始めた。
「あ、このジャケット……」
それは恋人の青年のブラウンのダウンジャケット。彼女にとっては思い出深く、自然と抱きしめてしまった。
「なに、どうしたの? 俺のジャケット抱きしめちゃって」
その様子を見ていた青年は嬉しそうに笑っていた。
彼女は、もう一度青年のダウンジャケットを見つめ、再び抱きしめる。
「だって……このジャケットを着た貴方と沢山の思い出があるんですもん」
色々出かけた。
何よりこのダウンジャケットは青年に似合っていて、ドキドキしたことが何度もある。そういう意味でも大切で、大好きなダウンジャケットなのだ。
思い出に浸る彼女を苦笑いする青年は、彼女からダウンジャケットを剥き取った。
「ちゃんとこの冬も着るよ。まずはクリーニングに出さないとね」
「はい!! 今年も沢山思い出作りましょうね!!」
満面の笑みを青年に向けて、この冬への期待を膨らませた。
おわり
一五九、衣替え
10/22/2024, 12:16:55 PM