安達 リョウ

Open App

神様だけが知っている(外された梯子)


「………いつまでそうしている気だ?」

空の上での転生の順番待ちの列は、相変わらず賑やかしい。
わいわい騒ぎ次々と滑り台を降りていく魂で混み合う中、離れた場所でひとつの器が台の頂で微動だにしないでいる。もう、何年も。

「ここにいる」

その問いに、器はただそう答えてきた。………もう、何年も。
―――頑なにそこから動かないとの報告を天使から受け、直々に見に来たはいいが。どうにも説得できそうな雰囲気にない。

「他の者は別の台で行っているぞ?」
「ここにいる」
「違う台でも転生するのに問題はなかろう?」
「ここにいる」
「………我儘を言うでない。どの台でも一緒、」

―――ではないことは。
わたしが誰よりも、………知っている。

その滑り台は既に機能していなかった。
下には降りられないよう鎖がかけられ、ご丁寧に大きく✕の札がかけられている。
最近はそんな台が増えてきていて、わたしも困惑を隠せないでいる。
理由はひとつひとつ違っており、単純なものから複雑なものまで多種多様を極め、台数の回復の見込みは今のところ目処が立っていない状態である。

「………ここがいい」

その器は寂しそうに呟くと、俯いて口を噤んだ。
「………どれだけ待っても、札は外れぬよ。そればかりか風化が進み、やがて崩れて塵となる」
わたしが躊躇いがちにそう告げると、器はさめざめと透明な涙を流した。
「先に滑ったふたりと約束したのに。待ってるって。待っててって。何で✕なの。ここしか嫌なのに」

………先に行った者達は、無事に転生し元気な命を頂いていた。
それに続きたかった気持ちはわかるが、昨今の事情から3回目以降は滑れない台が大半を締めている。
それどころか2回目も危うい台も多い。
さもすると1回目すら………。


「………。好きなだけいるがいい。お前は何も悪くない」

わたしはその魂の子の頭を撫でると、泣くでないと汚れのない涙を拭い慰めた。


END.

7/5/2024, 7:05:13 AM