親愛なるあなたさま。
私、手紙の中に花びらを入れて送ってみたかったのです。いつか見た歌舞伎で、妻の手紙に同封された江戸の桜を夫が京の都で舞い散らす場面を見ました。風情があって良いですよね。
夏ならひまわり、秋ならコスモス、冬なら山茶花の花びらが良いでしょう。チラチラと舞い散る花びらと共に、文を読むあなたの姿を思い浮かべて、この手紙をしたためました。
ただ私は、普通なことは好きではありません。至るところに咲き乱れる花を入れても面白くありませんよ。封を切るまで手紙以外に何が入っているのか、胸を膨らませる期待をあなたに与えたいのです。
だから、この前作った削り花の花びらを入れました。おばあさまの墓前に飾るヒガンバナの花びらです。くるくると赤く巻いて、まるで蛇の舌みたいでしょう。別にキスをしても良いのですよ。あなたは、たくさんのお相手と上手にお付き合い出来ますからね。舌はたくさんありますから、どうぞ、たっぷりと愛情を注いでください。
私は、あなたの無知な博愛に舌を噛み切ったので、削り花の花びらを代わりに舌を巻いています。あなかしこ。
(250218 手紙の行方)
2/18/2025, 1:19:46 PM