夕暮電柱

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七夕

陸の孤島

大型ショッピングモールの一角、即席で作られた壁紙には沢山の長方形の紙が張り出されていた。

『七夕祭り、お願い事を書いてみよう』

明朝体で書き出された機械的文面、A3用紙の白い余白に飾り毛のない黒が印字されている。イベントにも関わらず簡素でシンプルなデザイン、文字も一つ一つ切り出してもっと適切な書体を使えば映えるだろう。
せめてお願い事を書く紙も色紙を使えば良いのに白い画用紙を長方形に切っただけの、本当に遊び心のないつまらない物だ。

それでも、その短冊には様々な思いが書き連ねていて。幸せを願う人、応援する人、目標を掲げる人、そのどれもが筆跡に感情を発している。

照明が落ちた店内に陽の日差しが入る、思いを繋ぎ止めている透明なシールは光を受け、着実にダメージを与えた。その幾つかは剥がれ今にも落ちそうな短冊すらあるが、今の所床に落ちた短冊は一つもない。

併設された飲食店、紳士、婦人服から子供服まで揃った服屋。異様な空気漂う食品スーパー。動力を失った動かないエスカレーターと正面入り口、そして右奥にある老夫婦が営む雑貨屋。しんと静まり返った店内は当時のままそこにある。

去年と同じ七月七日、午後四時頃大きな爆発が全てを変えた。その日からこの土地に人の、生物の侵入を許さない過酷な場所へと形を変えたのだ。
どんな優秀な機械でもメンテナンスが必要であるように、人間もまた同じ過度なストレスはミスを誘発する。

フッ と一枚の短冊が音もなく剥がれ落ちた

「家族みんな元気でありますように」

再びこの土地に人が訪れる日は早くとも数十年先、先の見えない未来でも、希望を見出し今を生きる。
家族を案ずる思いに陽の光が当たる、
その一枚の短冊の願い事を聞き届ける様に。

おわり

7/7/2024, 6:52:51 PM