時雨

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特別な夜
肌にベタつく汗を拭いながら男は最後の仕上げに入る。
今まで積み重ねてきた想いを夜空に咲かせて。

3月〜6月 新作の開発に向けて男達は会議を開き各々の想いを白紙に書き出す。
この仕事は前々からの準備が必要不可欠であるのと同時に出来栄えが全てを決める。
形、色だけではなくパソコンでの演出とプログラム設定。更に、早朝からの準備と片付け以外にも不発玉の捜査と撤収など重労働と繊細さが命綱を握っているのも特徴だ。

余りの過酷さに現場を去る者が後を絶たない。
だが、俺は強い信念を持ってここ20年やってこれた。
それはある花火師との出会いが俺の人生全てを変えてくれたからだった。

俺は正直社不と呼ばれるほど中身が無い人間だった
勉強も、運動も
女には愛想つかされ、社会に出れば腫れ物扱い。
最初は真面目にやっていたがそれも意味をなさない扱いを長年受けていたせいか生活は薬に手を出すほど荒れ狂っていた。

そんな時、昔馴染みのある男に飲みに誘われた。
その男とはたまに連絡を取り合うくらいでそいつが結婚してからは会うことも無くなっていった。
久しぶりの連絡に俺は驚いたのと同時にそいつとの世間の差を思い出し留まってしまった。
「今更、何のうのうと連絡してきてんだよ、こいつ」
はぁ、、、、だりっ、、、、イライラしてきた。
俺は、自己嫌悪を忘れる為に近くに転がっていた酒に口をつけ一気に飲み干した。

今思えばキッカケを作ってくれた友人に感謝しかない。

「もうすぐ始まるね!」
「ね〜楽しみだね、今回は特別なものがあるって公式に書いてあったよ!!」
浴衣に身を包んだ女性達が楽しげに会話するのが聞こえた。

俺は「ふっ」と笑い星を詰めた筒に火をつける。

「ヒューーーー、ドン、ドン、パラッ」
夜空に添えるカラフルな赤、緑、黄色、青色。
「バーーーーン、、、、、、チリチリチリチリ」
色や形を変化させ人々の目に焼き付けていく光景は何時見ても地道な作業が報われる瞬間だ。

その景色は蒸し暑い季節に彩りを添え、
見上げる夜空に記憶を刻み、特別な空間を、夜を
提供する事ができる。

まさに夏の風物詩である。
男は仕事を終えると、にこやかな笑顔で缶ビールが入った袋を持ち思い出を一緒に作った仲間が待つ車に戻って行った。
「おーーーい、今日は宴だ。」
「酒を浴びるほど飲むぞーーーーー。」
「まーーた、いってらあいつ笑」
「酒よえーくせによーー笑」
「うるせぇ!!!慣れれば楽勝だ。」

男達の笑い声が夜空に響き渡っていった。

1/21/2026, 12:13:53 PM