君のことを知った時、
私は君を救いたいと心に決めたんだ。
高校の頃に僕らは出会った。
君は陸上部の部長だった。
君は、顔も愛想も良くって、誰にも平等に声をかけていた。みんなが君を名家の生まれだとか、コンクールで入賞したなんて、ありもしない噂をしてた。
当時の僕は、君が羨ましかった。
勉強もできて、イケメン、その上、運動神経抜群、天は二物を与えずなんて、大嘘だ。
僕みたいな友人すらいない、
ろくでなしとは違うんだ。
そんな風に思い込んでたね。
だから、はじめて君の背中にある
夥しいほどの痣を見た時、僕は自分がどれだけ君を見ていなかったか、理解したんだ。
赤じゃない、ぽつぽつとした青白いような黒子のような痕、どう見たって普通じゃない。
君は病気だと言って、更衣室から出ていったけど、あれはそういうものじゃないとわかってた。胸騒ぎがして、君に対して興味が沸き起こった。
それから僕は、君から話を聞くようになった。最初は一方的な質問で、君は明らかに嫌がってた。でも、僕はやめなかった。
終業式が終わって、皆が夏休みの予定を話す中、僕はいつものように図書館で君を待った。部活が終わると君は決まって図書館に来た。そして、机の上に参考書の山を築きあげて、真剣な眼差しでノートをとる。
僕は邪魔しちゃ悪いと思ってたけど、いつも君に声をかけた。ときおり、一緒に勉強もした。
そして、決まって最後に傷のことを聞いた。
何度も君に怒られたり、嫌がられたり、誤魔化されたりした。けど、最後に君は話してくれた。
両親の中が悪いこと、母親が躾と称して、
殴られたり、蹴られたりしたこと。
内申点やテストを一点でも逃すと、それが余計に酷くなること。中学でいじめに遭い、それを誰も助けてくれなかったこと。
無数の不幸の洪水で、思わず僕は溺れそうだった。広げたままノートが濡れて、はじめて君が感情を見せた時、僕は必死に励ましたけど、涙が止まらなくて、どっちが辛いのか全くわからなかったよ。
それから、僕はできる限りのことはした。
君の話を聞いたり、先生に相談を持ちかけたり…、所詮高校生で、バイトも禁止だったから、できることは限られてた。
僕は、話を聞いたり、一緒に遊ぶくらいしかできなかったけど、それでも君の表情が徐々に明るくなっていったのは、嬉しかったよ。
さて、僕らは社会人になって、すっかり会わなくなってしまったね。
君が母から逃れるためとはいえ、住所も言わずに消えてしまったから、住所を探すのに随分苦労したよ。
卒業写真を見てたら、いろいろ思い出しちゃってね。無性に君に会いたくなったんだ。
同僚からいいお酒を貰ってね。
君さえ良ければ、また一緒に馬鹿な話でもしてみないか?
『あなたとわたし』
11/8/2023, 7:31:18 AM