悪役令嬢

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『花咲いて』

「ラーメンが食べたいですわ」

美しく咲き誇るラベンダーを
眺めながら悪役令嬢は静かに呟いた。

「ラーメン……ですか」
「はい。幼い頃、お父様に連れて行ってもらった
ラベンダー園で食べたラーメンの味が忘れられ
ないのです。またあれが食べたいですわ」

早速セバスチャンは、
図書室でジャポネ料理の本を読み漁り、
メイドのベッキーと共に厨房へ向かった。

「今日は何を作られるのですか?」
「ラーメンだ」
「東洋の料理ですよね?初めて作ります!」

「俺も同じだ。だが、あの方の望みに
応えるためにはやるしかない。
力を貸してくれるか、ベッキー」

「もちろんです!」

まずセバスチャンは麺作りに取り掛かった。
小麦粉、塩、水を正確に計量し、
ラベンダーの粉末を加えて丁寧に捏ね上げる。

人間離れした腕力で生地を伸ばし、
何度も折りたたむ。
まるで芸術家が作品を生み出すかのように。

その間にベッキーはスープの準備に専念する。
今回は紫色の麺が映えるよう
塩ベースで挑戦だ。

手羽先、にんにく、生姜、長ネギ、玉ねぎ、
人参、りんご、水を大鍋で煮込みながら、
別の鍋で昆布と鰹節の出汁を取る。

何度も味見を重ねて、調整を続ける二人。
「うーん、なんだか物足りない感じがします」
「そうだな。もう少し塩を付け足すか」

試行錯誤の末、遂に究極のラーメンが完成した。

「お待たせいたしました、主。
ラベンダーラーメンでございます」

セバスチャンが差し出した器には、
透き通った薄紫色のスープに
紫色の麺が浮かんでいた。

上には、輪切りレモン、オクラ、コーン、
カイワレ、赤玉ねぎのみじん切りが
色鮮やかに盛り付けられている。

悪役令嬢は目を輝かせ、恐る恐る箸を取った。
麺を啜った瞬間、彼女の体に電流が走る。

「何ですのこれは……」
「お口に合いませんでしたか?」
心配そうに尋ねるベッキー。

「違いますわ!これこそが私の求めていた味。
いいえ、それ以上のものですわ!」

悪役令嬢の怒涛の食レポが始まった。

「ラベンダーの香りがほのかに香る上品な麺に、
鶏と海の風味が調和したスープ。これらが
絶妙にマッチして、まるで紫色のドレスを纏う
女王と武士が手を取り合いダンスを
踊っているようですわ」

よく分からない例えだが、褒め言葉として
受け取るセバスチャンとベッキー。

「素晴らしいですわ。
二人とも、本当にありがとうございます」

「光栄です、主」
「お嬢様に喜んでもらえてよかったです!」

その日の午後、清々しいラベンダーの香りが
漂うテラスで、三人はラーメンを啜った。

彼らの頭上でラベンダーラーメンの女神が、
花咲くように笑った気がした。

7/23/2024, 6:45:05 PM