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愛してる。君がそう言ってくれたとき、同じ想いを抱くことができなかった。ごめんね、ごめんね。君をみつめながら、言葉にならない言葉で問いかける。とめどなく涙があふれてくる。どうして泣いているのだろう。すきですきで仕方がないほどすきだったのに。どうして泣いているの、と不安そうな顔で君が見つめてくる。目の端に溜まった涙を手でぬぐいながら、すきだよ、ともう一度伝えられる。どうして涙が出るのだろう。頭の中がぐちゃぐちゃになっている。複雑な感情が心をかき乱す。ああ、私は他の人を想ってしまった。今、目の前にいる君ではないあなたのことを。ごめんね、ごめんね。こんなことになってしまって。私はもう君とは一緒にいられないかもしれない。愛してる。崩壊寸前の2人をつなぐ5文字の言葉。たった5文字に込められた、君の精一杯の想い。

ひとときも離れることなく過ごした君との毎日。楽しいこと、辛いこと、たくさんあった中で、支え合いながら過ごした5年間。あまりにも長く一緒に過ごしてしまったせいで、離れられなくなっていたのかもしれない。言葉の暴力で君を傷つけてしまっていた私。どれほど君の優しさを踏みにじってしまったことか。それでも私のそばにいてくれた君。

しかし、私は君の隣から去った。別れるという選択を迫ったとき、君は永遠に一緒にいようと言ってくれた。私が、心から望んだその言葉。別れを告げなければ聞くことのできなかったということに、悲しみと
虚しさを覚える。君との将来を思い描くほど、2人の関係性を前に進めようとしてすれ違ってしまったね。運命の人だと思って疑わなかった。ずっと一緒にいたかった。でも、叶わないんだ。そう思ったとき、私の中で赤い糸が切れる音がした。ぷちん。結ばれることのなかった2人。残酷な現実。

2人を引き裂いたのは、夢だった。小さいころから夢みた職業。夢を叶えるために切磋琢磨し、励ましあい、大変な時期を乗り越えた。夢を掴んだのは、君だった。私の心が死んだ。

君のまなざしに、あふれ出る優しさに惹かれた。惹かれてしまった。2人が両思いになるまでに時間はかからなかった。まるで一緒になることが必然だったかのように。
君は私にはないものを持っていた。図書館で出会った日に、目を惹くものがあった。運命の人なんだ、と思っていたけれどそうではなかったんだね。夢の職業になれる才覚を備えていた君に、無意識に惹かれたのだ。君のことをずっと見下していた私。合格発表の日に、実力の差と才能の無さを突きつけられた。死にたい、そう思った。何のために、努力してきたのか。何のための、人生なのか。自分の存在意義がわからなくなって、自分を責めて君を恨んだ。私が叶えられなかったのは君のせいだとも思った。一緒に合格しよう、と約束したのに1人で合格してしまうなんて。君よりも私のほうが一歩先を歩いていると思っていたけれど、実際にははるか彼方を歩いていた。君を慕う気持ちと憎む気持ちとが混在するようになった。君の成功が私の不幸となり、私にのしかかる。君と一緒にいたいのに、君の活躍をそばで見守るのが辛くなった。夢を諦めることもできなくて、ただただ終わりの見えないゴールに向かって共に走り続けた。努力が身を結ぶこともなく、夢は夢となって散ってゆく。君を罵ることしかできず、君を傷つけてばかりいた。歪んだ関係性。付き合うときだって、別れるときだって、言い出すのは私だった。もう、これで終わりにしよう。君との別れを決意した。自分のために、君のために。5年間、支えてくれて心からありがとう。人をすきになることを教えてくれたのが君でよかった。とてもすきでした。幸せになってね。

3/28/2023, 2:21:09 PM