「もう、無理だよね私たち」
最後の言葉がそれなのか。僕は何の返事もしなかった。無視をしたんじゃなくて答え方が分からなかったから。肯定も否定も多分、キミのことを傷つける。
「何がいけなかったのかな」
彼女はまた勝手に喋り出した。僕の返事を期待してるわけではなかったようだ。ぼそぼそと言ったあと顔を突っ伏してしまった。反射的に僕は彼女の頭を撫でそうになる。けど、それをしちゃいけない。キミが言った通り、もう僕らは無理なんだ。それをよく分かっているから、余計な優しさは傷を抉るだけになる。
「行って。私が見てない間に」
声が震えていた。最後の最後に泣かせてごめん。ここで同じように僕が泣いたら収集がつかなくなる。ありがとう、ごめんね。キミの望む別れ方を尊重しよう。
静かに部屋を出る。外の世界は中途半端に蒸し暑かった。空を仰ぎ見たら嫌な鈍色をしていた。もう間もなく降り出すだろう、と、思った矢先に鼻先に落ちてくる水滴。それはあっという間にまとまった量になり、僕の全身を濡らした。久しぶりに今日の夕立は勢いが良いな。激しい雨に打たれながら呑気に考えている。通行人は誰も居ない。だからこんな惨めな姿になっても構うことはない。
「さようなら」
言えなかった別れの言葉を今さら呟く。声は雨音よりも全然小さかった。空の雨は、まるで僕の感情を代弁しているようだ。
こんなふうに、本当は僕も彼女の前で泣きたかった。
こんなふうに、キミの前で泣いたなら、
もしかしたら――
9/17/2023, 9:57:32 AM