切子グラスの中で氷がカラリと音を立てた。昨夜のうちに食器棚の奥から出しておいたグラスだった。斜めのカットが入ったそれで飲むカルピスは、普段より濃かったのだろう。鼻の奥に残る後味が長いあいだ消えなかった。
一九九九年、七の月。恐怖の大王が地上に降りてくると言われた日。青空をぼんやり見つめる君の瞳を僕は見ていた。 空調の低く唸る部屋で、形の良い指先に傾けられたグラスがやわらかな頬へ光を跳ね返すのを見ていた。
もしも世界が終わるなら、今がいいと願いながら。
『もしも世界が終わるなら』
9/18/2025, 2:09:42 PM